
この記事の要点
- 顔は皮膚・皮下脂肪・SMAS・深部脂肪・骨の層構造で、層ごとに違う速さで変化する。原因は人により、同じ方でも部位により異なる。
- ヒアルロン酸=「足す」のではなく失われた支えを戻す(量より位置と層・左右別評価・エコーで層と血管を確認)。
- ボトックス=「止める」のではなく表情筋の綱引きのバランスを整える(額は前頭筋だけを止めない・首のプラチスマは第3相試験で有効)。
- HIFU・高周波=「引き上げる」前に皮膚とSMASという土台の質を整える(4.5mmに必ずSMASがあるとは考えず、エコーで位置を確認)。
- エムタイト=筋肉という土台を育てる。ボトックスとは矛盾せず、ゆるめる筋肉と育てる筋肉を見極める。
- 国際コンセンサス(Carruthers 2016): 複数の層で起こる加齢には組み合わせ治療が単独より良いことが多く、出発点は丁寧な診察と個別計画。
はじめに
以前のブログで、「変えるのではなく、整える」という治療方針と、それを裏付ける研究のひとつとして Canada HARMONY Study をご紹介しました。
ヒアルロン酸、ボツリヌストキシン、スキンケアを組み合わせて顔全体を治療したこの研究では、顔貌への満足度だけでなく、心理的・社会的な満足度まで有意に改善したことが報告されています。
では、その「整える」という考え方を、実際の治療ではどう形にしているのか。
今回は、当院で日々行っている
- ヒアルロン酸注入
- ボトックス(ボツリヌストキシン)
- エネルギーデバイス(HIFU・高周波)
- 新たに導入したエムタイト(筋肉へのアプローチ)
の4つについて、それぞれを「整える」という視点からどう考えているかをお伝えします。
顔は「層」ごとに、違う速さで変化する
「整える」治療の出発点は、顔の加齢がひとつの変化ではない
と理解することです。
顔は外側から、皮膚・皮下脂肪・SMAS(表情筋を含む線維性の膜)・深部脂肪・骨という層構造でできています。医学的には、それぞれの層が別々に、異なるかたちで変化することが分かっています。
- 脂肪:皮下脂肪はひとつの塊ではなく、境界を持つ複数の「区画(コンパートメント)」に分かれています。顔は一体として老けるのではなく、区画ごとに変化するとされています(Rohrich & Pessa, 2007)。
- 骨:上顎骨(鼻の横)、眼窩縁の一部、あご先の手前(プレジョール)などは、加齢とともに一定のパターンで吸収されることが報告されています(Mendelson & Wong, 2012)。
- SMAS:ほうれい線より外側では脂肪を包む小さな線維隔壁の構造、内側では筋線維とコラーゲンが密に絡む網目構造と、部位によって形態が異なります(Ghassemi ほか, 2003)。
- 筋肉:日本人110名のCT解析では、目の周りの筋肉(眼輪筋)は年齢とともに薄くなり、骨への付着も弱くなることが示されています(Okuda ほか, 2023)。
つまり「たるみ」「くぼみ」「疲れた印象」の原因は
人によって、また同じ方でも部位によって異なります。
どの層が、どの程度、どちら側で変化しているのか。
それを見極めずに一律の治療を重ねると、かえって本来のバランスから離れてしまうことがあります。
当院では、層・左右差・表情・その方の雰囲気まで含めて全体を拝見してから、治療を組み立てています。
ヒアルロン酸:「足す」のではなく、「支え」を戻す
ヒアルロン酸は、ボリュームを足すための製剤と思われがちです。私はむしろ、失われた「支え」を元の位置に戻すためのものと考えています。
たとえば、ほうれい線が深く見えるとき、その溝そのものに入れるのが最善とは限りません。骨の吸収や深部脂肪の減少で中顔面の土台が下がっていれば、土台側を少量整えるほうが、表情を変えずに自然な影の改善につながることがあります。
そのために大切にしているのは、次の3点です。
- 量より、位置と層 同じ量でも、どの層に置くかで仕上がりは大きく変わります。
- 左右を別々に評価する 骨格も脂肪の減り方も、左右で同じとは限りません。
- エコーで層と血管を確認する 高周波エコーは、注入前・注入中に目的の層と重要な血管を可視化でき、血管閉塞などのリスク低減に役立つとされています(Vasconcelos-Berg ほか, 2024)。こめかみのように血管の多い部位でも、筋膜間の層を確認しながら注入する方法が報告されています(Desyatnikova, 2022)。
なお、エコーはリスクをゼロにするものではありません。ただ、「見えないところに入れる」治療を「確かめながら入れる」治療に近づけることは、整える治療の前提となる安全性そのものだと考えています(顔面エコーの標準化についての記事もご覧ください)。
ボトックス:「止める」のではなく、筋肉のバランスを整える
ボトックスは「しわを止める治療」として知られています。けれども私は、表情筋どうしの引き合いのバランスを整える治療だと捉えています。
顔の表情は、持ち上げる筋肉と引き下げる筋肉の綱引きで成り立っています。どちらか一方を強く止めすぎると、もう一方が優位になり、表情が不自然になったり、かえって重たい印象になったりします。
- 額:おでこの筋肉(前頭筋)は眉を持ち上げる唯一の筋肉です。ここだけを強く止めると、眉が下がり、まぶたが重く見えることがあります。眉を引き下げる側の筋肉とあわせて、力の釣り合いとして設計することが大切です。上顔面を「ひとつの動的な複合体」として扱う考え方も提案されています(Tracy & Moe, 2026。症例報告レベルの提案です)。
- 首・フェイスライン:首の広頸筋(プラチスマ)は、収縮によって下顔面を下方へ引き、フェイスラインをぼやけさせます。この筋肉へのボツリヌストキシン投与は、ランダム化プラセボ対照の第3相試験で、首の縦筋とフェイスラインの見え方を有意に改善したと報告されています(Fabi ほか, 2025;Shridharani ほか, 2025)。
目指すのは「動かない顔」ではありません。表情は残したまま、余分な緊張だけをゆるめ、その方らしい表情を取り戻すことです。
エネルギーデバイス:「引き上げる」前に、土台の質を整える
HIFUや高周波(RF)は「リフトアップ」の言葉で語られることが多い治療です。私はこれらを、顔を無理に引き上げるのではなく、皮膚とSMASという「土台」の質を整える治療と考えています。
HIFU(高密度焦点式超音波)は、皮膚を傷つけずに深い層へ熱エネルギーを届け、SMASを主な標的とします。ただ、SMASの深さや厚みは、部位にも個人にも差があります。
ここで、先ほどのSMASの構造の違いが関わってきます。外側では比較的「層」としてとらえやすい一方、中顔面では筋とコラーゲンが立体的に絡み合う構造です(Ghassemi ほか, 2003)。
そのため当院では、
- 「4.5mmの深さに必ずSMASがある」とは考えず、エコーでSMASの位置を確認しながらHIFUを照射する
- 層としてとらえにくい部位や皮膚の質には、高周波(ハイドロフェーズ)を組み合わせる
という方針をとっています。
実際に、標準的な照射ラインと、個々の解剖に合わせたカスタム照射を比較したランダム化試験では、どちらも下顔面・首のたるみを改善し、カスタム照射は解剖の個人差がある方の結果を最大化するのに役立つと結論づけられています(Wood ほか, 2024)。
高周波については、皮膚のハリやきめ、タイトニングの改善が多くの研究で報告されています(RFマイクロニードルの系統的レビュー:Kumar ほか, 2026)。ただし、機器や照射方法の種類が多く、研究の質にもばらつきがあるため、ひとつの機器の効果を一般化しすぎないよう注意が必要です。
エムタイト:筋肉という「土台」を育てる
最近、当院の「整える」治療に新しい選択肢が加わりました。
筋肉そのものに働きかけるエムタイト(MTIGHT)です。
これまでの治療は、脂肪や骨の「支え」を戻す、SMASや皮膚の「質」を整える、筋肉の「余分な緊張」をゆるめる、というものでした。エムタイトはそこに、筋肉の厚みと働きを取り戻すという視点を加えます。
顔の筋肉も、加齢とともに薄くなります(Okuda ほか, 2023)。
また、表情の豊かな方ほど表情筋が厚く、筋肉内への脂肪の入り込みが少ない傾向も報告されています(Okuda ほか, 2020)。筋肉は、皮膚や脂肪を内側から支える「土台」の一部です。
筋肉への電気刺激については、近年いくつかの研究が出てきています。
- 電気刺激で筋肉が厚くなり、輪郭が整う:顔の片側だけに8週間の電気刺激を行った試験では、刺激側で眼輪筋と側頭筋が厚くなり、目の下のふくらみやこめかみの輪郭が改善しました(Okuda ほか, 2026。14名の小規模試験)。
- 電気刺激と高周波の組み合わせ:同期した電気刺激と高周波の治療で、頬の筋肉(大頬骨筋)の厚みが約2.1mmから2.8mmに増え、中顔面のボリュームも増加したと報告されています(Frank ほか, 2025。37名の非ランダム化試験)。
これらは、筋肉を育てることで土台から輪郭を整えるという考え方を支える知見です。
エムタイト自体の筋肉量への効果を示した論文はまだありません。当院では、エコーで筋肉の状態を確認しながら、効果を丁寧に評価していきたいと考えています。
そして、ボトックスとエムタイトは矛盾しません。ゆるめるべき筋肉と、育てるべき筋肉を見極める。それも、筋肉のバランスを整えるということです。
組み合わせて、全体を整える
層ごとに変化する顔に対して、ひとつの治療ですべてを解決することはできません。それぞれの治療には、得意な層と役割があります。
国際的な専門家コンセンサスでも、加齢は顔の複数の層で起こるため
異なる治療を組み合わせるほうが単独治療より良い結果につながることが多いとされています。
そして最適な治療は、丁寧な診察と個別の治療計画から始まると明記されています(Carruthers ほか, 2016)。
同じ日に行う場合はHIFUを注入より先に行う、といった順番についても推奨が示されています。
冒頭の Canada HARMONY Study も、この「全顔・多層」の考え方の延長線上にあります。
おわりに
ヒアルロン酸は「支え」を
ボトックスは「力の釣り合い」を
エネルギーデバイスは「土台の質」を
エムタイトは「筋肉という土台」を
どれも顔を作り替えるための道具ではなく
その方が本来持っているバランスへ戻すための手段です
「何をするか」より先に、「どこが、なぜ、変わったのか」を見ること。
それが、変えるのではなく整える美容医療の出発点だと考えています。
バランスを整える治療について、お気軽にご相談くださいませ。
※治療の効果や経過には個人差があります。内出血・腫れ・痛みなどの副作用が生じることがあります。詳しくは診察時に説明させていただきます。
よくあるご質問
「変えるのではなく、整える」とはどういう治療方針ですか?
顔を作り替えるのではなく、その方が本来持っているバランスへ戻すことを目指す方針です。ヒアルロン酸は失われた「支え」を元の位置に戻す、ボトックスは表情筋どうしの「力の釣り合い」を整える、HIFU・高周波は皮膚とSMASという「土台の質」を整える、エムタイトは「筋肉という土台」を育てる、という役割で捉えています。「何をするか」より先に「どこが、なぜ、変わったのか」を見ることが出発点です。
顔の老化はなぜ人によって違うのですか?
顔は外側から皮膚・皮下脂肪・SMAS・深部脂肪・骨という層構造で、それぞれの層が別々に、異なるかたちで変化するためです。皮下脂肪は境界を持つ複数の区画に分かれて区画ごとに変化し(Rohrich & Pessa 2007)、上顎骨や眼窩縁の一部、プレジョールは一定のパターンで吸収され(Mendelson & Wong 2012)、SMASは部位で構造が異なり(Ghassemi 2003)、日本人110名のCT解析では眼輪筋が年齢とともに薄くなり骨への付着も弱くなります(Okuda 2023)。たるみ・くぼみ・疲れた印象の原因は人により、同じ方でも部位により異なります。
ヒアルロン酸はほうれい線の溝に直接入れるのですか?
溝そのものに入れるのが最善とは限りません。骨の吸収や深部脂肪の減少で中顔面の土台が下がっていれば、土台側を少量整えるほうが表情を変えずに自然な影の改善につながることがあります。当院では「量より位置と層」「左右を別々に評価する」「エコーで層と血管を確認する」の3点を大切にしています。高周波エコーは注入前・注入中に目的の層と重要な血管を可視化でき、血管閉塞などのリスク低減に役立つとされていますが(Vasconcelos-Berg 2024)、リスクをゼロにするものではありません。
ボトックスで表情がなくなりませんか?
目指すのは「動かない顔」ではありません。顔の表情は持ち上げる筋肉と引き下げる筋肉の綱引きで成り立っており、どちらか一方を強く止めすぎると表情が不自然になったり重たい印象になったりします。たとえば前頭筋は眉を持ち上げる唯一の筋肉なので、ここだけを強く止めると眉が下がりまぶたが重く見えることがあり、眉を引き下げる側の筋肉とあわせて力の釣り合いとして設計します。表情は残したまま、余分な緊張だけをゆるめることを目指しています。
首やフェイスラインにもボトックスは使えますか?
首の広頸筋(プラチスマ)は収縮によって下顔面を下方へ引き、フェイスラインをぼやけさせます。この筋肉へのボツリヌストキシン投与は、ランダム化プラセボ対照の第3相試験で首の縦筋とフェイスラインの見え方を有意に改善したと報告されています(Fabi 2025;Shridharani 2025)。
HIFUは4.5mmの深さに照射すれば良いのですか?
SMASの深さや厚みは部位にも個人にも差があり、外側では層としてとらえやすい一方、中顔面では筋とコラーゲンが立体的に絡み合う構造です(Ghassemi 2003)。当院では「4.5mmの深さに必ずSMASがある」とは考えず、エコーでSMASの位置を確認しながらHIFUを照射し、層としてとらえにくい部位や皮膚の質には高周波(ハイドロフェーズ)を組み合わせます。標準照射と解剖に合わせたカスタム照射を比較したランダム化試験では、どちらも下顔面・首のたるみを改善し、カスタム照射は解剖の個人差がある方の結果を最大化するのに役立つとされています(Wood 2024)。
エムタイトはボトックスと矛盾しませんか?
矛盾しません。ゆるめるべき筋肉と、育てるべき筋肉を見極めることも、筋肉のバランスを整えるということです。顔の筋肉も加齢とともに薄くなり(Okuda 2023)、顔の片側だけに8週間の電気刺激を行った試験では刺激側で眼輪筋と側頭筋が厚くなり(Okuda 2026・14名の小規模試験)、同期した電気刺激と高周波で大頬骨筋の厚みが約2.1mmから2.8mmに増えたと報告されています(Frank 2025・37名の非ランダム化試験)。エムタイト自体の筋肉量への効果を示した論文はまだなく、当院ではエコーで筋肉の状態を確認しながら効果を丁寧に評価していきます。
治療は組み合わせたほうが良いのですか?
層ごとに変化する顔に対して、ひとつの治療ですべてを解決することはできません。国際的な専門家コンセンサスでも、加齢は顔の複数の層で起こるため異なる治療を組み合わせるほうが単独治療より良い結果につながることが多く、最適な治療は丁寧な診察と個別の治療計画から始まるとされています。同じ日に行う場合はHIFUを注入より先に行う、といった順番の推奨も示されています(Carruthers 2016)。
参考文献 / References
- Rivers JK, et al. Canada HARMONY Study: Improvements in Patient Satisfaction With Facial Appearance and Psychological Impact of Combined Aesthetic Treatment. Aesthet Surg J Open Forum. 2025;7:ojae130. doi:10.1093/asjof/ojae130
- Rohrich RJ, Pessa JE. The fat compartments of the face: anatomy and clinical implications for cosmetic surgery. Plast Reconstr Surg. 2007;119(7):2219-2227. doi:10.1097/01.prs.0000265403.66886.54
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- Desyatnikova S. Ultrasound-Guided Temple Filler Injection. Facial Plast Surg Aesthet Med. 2022;24(6):501-503. doi:10.1089/fpsam.2022.0176
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- Wood E, et al. Comparing the Safety and Effectiveness of Microfocused Ultrasound: Standard vs Targeted Tissue Protocol in Lifting and Tightening the Lower Face and Upper Neck. J Drugs Dermatol. 2024;23(4):249-254. doi:10.36849/JDD.7647
- Kumar N, et al. Radiofrequency Microneedling for Facial Rejuvenation: A Systematic Review. J Cosmet Dermatol. 2026;25(4):e70845. doi:10.1111/jocd.70845
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※本記事は治療の考え方に関する一般的な解説であり、特定の治療の効果を保証したり、その利用を推奨したりするものではありません。治療をご検討の際は、診察のうえでお一人おひとりの状態に応じてご説明します。
■ 執筆者・監修者プロフィール
中野 陽子(アートラウンジクリニック院長 / 麻酔科専門医・麻酔科指導医)
【略歴・学術実績】
・2007年: 獨協医科大学医学部 卒業。在学中、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)へ留学。
・2009年〜: 沖縄県立北部病院、岩手医科大学などで麻酔科学を深く研鑽。
・2016年: 日本麻酔科学会誌『麻酔』にて、小児の高度な気道管理に関する論文を筆頭著者として発表。
・2022年: 大手美容クリニックを経て、アートラウンジクリニック院長に就任。
・2025年〜: 現在も大学病院 麻酔科非常勤医師を兼務。
最前線の麻酔科医としての豊富な臨床・学術経験(小児麻酔などの高度な気道・安全管理含む)を活かし、美しさと安全性を高いレベルで両立する美容医療を提供しています。