
母の脚の筋力低下が気になるようになっていた今年。追い打ちをかけるような8月のエピソード(異常な下肢のむくみ事件)。
下肢のむくみもあり、少しでも筋肉を動かしたほうがいいのではないかと、プールで歩くようになった母。
「年齢とともに筋肉は落ちるから、ちゃんと動かさないとね」そんな話をしていたのですが、ふと気づきました。
母の心配をしている場合ではない。私も、以前より明らかに歩くのが遅くなっている。太腿だけでなく、上腕の筋力も落ちている気がする。
親子そろって筋力低下に気づいた夏でした。
皮膚の変化は鏡を見れば気づきます。脂肪が増えた、減ったという変化も比較的わかりやすい。けれど筋肉は、少しずつ量や機能が低下していても日常生活に大きな支障が出るまでは、なかなか意識されません。
これは、顔も同じなのではないかと気付きました。
私たちは、顔がたるんできたとき「皮膚がゆるんだ」「脂肪が下がった」「骨が痩せた」とは考えます。けれど、顔を持ち上げ、表情をつくっている筋肉はどうなっているのか。そこは、これまであまり語られてきませんでした。
身体の筋力が低下したら、筋肉を動かすことを考える。では、顔を持ち上げる筋肉の量や機能が低下したらどうすればいいのでしょうか?
このたびアートラウンジクリニックではRFとEMSを組み合わせた治療機器「エムタイト(M-TIGHT)」を導入することにしました。
なぜ今、たるみ治療に筋肉へのアプローチが必要だと考えたのか。そして、エムタイトによって何が変わる可能性があるのか。今わかっていることと、まだわかっていないことを分けながらできるだけ正直にお話ししたいと思います。
この記事の要点
- 従来のたるみ治療(ボトックス・注入・糸リフト・HIFU/RF)は、「筋肉を鍛えて持ち上げる」方向にはアプローチしてこなかった
- 自力の表情筋トレーニングは再現性に課題があり、システマティックレビューでも十分な根拠はないとされる
- 顔専用EMSで大頬骨筋の厚みが平均18.6%増えたRCT、EMS×RF複合で筋厚・引き上がり・頬ボリュームが改善した2025年の報告など、「電気で筋肉に働きかける」エビデンスが揃ってきた
- 当院はEMS×RF複合機エムタイト(M-TIGHT)を導入。ただし「筋肉さえ鍛えれば解決」ではなく、他の治療との組み合わせ設計が前提
美容医療は「弱める」のは得意だった
ボトックスは、単純に「筋肉を緩める治療」ですが、より正確には、働きすぎていた筋肉の動きを弱める治療です。
ボリュームには注入、たるみには糸リフト
「引き上げる力」そのものにアプローチする方法も実はいくつかありました。
骨や深部脂肪が減ってしまった分の「土台」を補うのがヒアルロン酸注入です。これはボリュームロス(容量減少)に対する治療で筋肉を鍛えるものではありませんが、土台がしっかりすれば見た目の頬の位置は変わります。(ボリュームロスを改善することで、組織を元あった位置に戻すイメージ)
もうひとつが糸リフト。医療用の糸を皮膚の下に通して、物理的に組織を引き上げる治療です。「引き上げる」という結果だけを見れば直接的ですが、これも筋肉そのものの機能を高めているわけではなく、あくまで機械的に持ち上げているという位置づけです。
HIFUや高周波も、実は「筋肉」には効いていない
「たるみ治療」と聞いて多くの人が思い浮かべるのはHIFU(ハイフ)や高周波(RF)だと思います。当院でも人気の治療です。
これらは、皮膚や皮下組織に熱を加えて、コラーゲンの生成を促したり、線維性の組織をキュッと引き締めたりする治療です。「肌のハリ、引き締め」という意味ではしっかりエビデンスのある方法です。
ただし、高周波もハイフも筋肉にアプローチできる機械ではありません。
熱で「皮膚側」を引き締める治療と、電気で「筋肉側」を動かす治療はそもそも狙っている組織が違うんです。長年、たるみ治療といえば「皮膚を熱で引っ張る」方向のアプローチが主流で、「筋肉を鍛えて持ち上げる」方向は手つかずのまま残っていました。
じゃあ、頬を持ち上げる筋肉が弱ったらどうするの?
ここが長年の空白地帯でした。
自力で表情筋トレーニングをする方法はありましたが、正直かなり難易度が高いです。私はヨガにハマっていた時期もありまして、一時期「大頬骨筋を意識して笑う」というのを本気でやっていた時期があるのですが(笑)夫からは「変な顔してる」としか言われませんでした。
実際、狙った筋肉だけをピンポイントで動かすのは至難の業です。(というより、無理だと思います)違う筋肉(目の周りやあご)ばかり使ってしまい、逆にしわが増えるケースも報告されています。表情筋トレーニングの効果については、専門誌のまとめ論文でも「今のところ効果を裏付ける十分な根拠はない」と結論づけられています(Van Borsel et al., 2014)。
家でこっそり練習していた私の頬の筋肉は、たぶん今日もサボっています。
▶ 表情筋が体の筋肉と「成り立ちから違う」理由は、こちらの記事で詳しく解説しています:顔の筋肉は体の筋トレと同じように鍛えられるのか
「電気で鍛える」という発想
ここ数年、リハビリの世界で使われてきた「電気で筋肉を動かす」技術(EMS・NMES)を、美容の分野で頬の筋肉に使う研究が増えてきました。
たとえば108人の女性を対象にした試験では、12週間、顔専用のEMS機器を使ったグループで、頬の筋肉(大頬骨筋)の厚みが平均18.6%増えたという結果が出ています(Kavanagh et al., 2012)。使った本人の8割以上が「ハリ・引き締まり・リフト感」を実感したとのこと。
「電気刺激で筋肉が反応する」というのは、私が普段、麻酔科の現場でも神経刺激装置を使って確認している、馴染みある光景です。
手術中、筋弛緩薬という「筋肉の力を弱める薬」を使うのですが、これがちゃんと効いているか、そろそろ切れてきたか、をTOFモニターという機械で確認していました。(最近は私はほとんど使わないですが、麻酔科の先生方いかがですか?)電気で神経を刺激して、筋肉がピクッと反応するかどうかを見る、というものです。電気を流せば筋肉が動く、どれくらい刺激に反応するか、によって次の筋弛緩薬の追加のタイミングを見たり、術中にあえて筋弛緩薬の効果を切らせて筋刺激を術野で確認したいとき、などに使用していました。
そこにRF(高周波)を組み合わせると
さらに最近は、この電気刺激とRF(高周波)を同時に当てる機器の研究も出てきました。
2025年に発表された研究では、この組み合わせを24週間続けたところ、筋肉の厚み・肌の引き上がり・頬のボリュームすべてに改善が見られています(Frank et al., 2025)。RFが皮膚や線維組織を引き締める役割、電気刺激が筋肉に働きかける役割と、それぞれ違う仕組みで効いているのがポイントです。
エムタイト、導入します
そんな背景があって、当院ではこのたび【エムタイト(M-TIGHT)】を導入することにしました。EMS(電気刺激)とRF(高周波)を組み合わせた機器です。この機器によって、筋肉の質と量という、骨につづく顔の土台にアプローチが可能になります。
あともう一つ大事なことです。誤解してほしくないのですが、これは「顔の筋肉をムキムキにする治療」ではありません。
顔のたるみは、骨・脂肪・靭帯・皮膚・筋肉、いろんな要素が絡み合って起きています。筋肉はそのうちの一つのピースであって、「筋肉さえ鍛えれば全部解決」ではないんです。土台を整えるヒアルロン酸や、皮膚を引き締めるRF単体の治療と、うまく組み合わせてこそ意味があります。
ちなみに、最近は家庭用のEMS美顔器でも、きちんと使えば筋肉の厚みが増えるというデータも出てきています。なので「家庭用は届かないけど医療機器なら届く」という単純な話ではありません。当院でご提供する意味は、時間効率(短時間で複数部位)、RFとの複合効果、そして医師が一人ひとりの筋肉のバランスを見ながら出力や部位を設計できることにあります。(エコーも使用して筋肉の位置も確認します)
まとめ
- ボトックス:引き下げる力を弱める治療
- ヒアルロン酸:ボリュームロスを補う治療
- 糸リフト:物理的に引き上げる治療
- HIFU・高周波(単体):皮膚〜皮下組織を熱で引き締める治療
- 表情筋トレーニング:理屈は正しいが再現性に課題あり(エビデンスに乏しい)
- EMS・RF複合機(エムタイトなど):挙上筋を中心に筋肉に直接アプローチする、筋量と質を改善することが可能
※効果・経過には個人差があります。リスク・副作用・費用の詳細は、診察時に医師よりご説明いたします。
参考文献
- Van Borsel J, et al. The effectiveness of facial exercises for facial rejuvenation: a systematic review. Aesthet Surg J. 2014;34(1):22-7.
- Kavanagh S, et al. Use of a neuromuscular electrical stimulation device for facial muscle toning: a randomized, controlled trial. J Cosmet Dermatol. 2012;11(4):261-6.
- Frank K, et al. Impact of Synchronized Radiofrequency and High-intensity Facial Electrical Stimulation on Facial Muscles and the Superficial Fascial System in the Midface. Aesthet Surg J. 2025;45(4):422-428.
関連記事
- 顔の筋肉は体の筋トレと同じように鍛えられるのか|表情筋と体の筋肉の違い
- 高周波(RF)は何を温めているのか|線維性隔壁への選択的加熱とハイドロフェーズの設計思想
- 顔のたるみは「皮膚」だけでは説明できない|顔面支持構造(retinacular cutis)から考える顔面老化
■ 執筆者・監修者プロフィール
中野 陽子(アートラウンジクリニック院長 / 麻酔科専門医・麻酔科指導医)
【略歴・学術実績】
・2007年: 獨協医科大学医学部 卒業。在学中、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)へ留学。
・2009年〜: 沖縄県立北部病院、岩手医科大学などで麻酔科学を深く研鑽。
・2016年: 日本麻酔科学会誌『麻酔』にて、小児の高度な気道管理に関する論文を筆頭著者として発表。
・2022年: 大手美容クリニックを経て、アートラウンジクリニック院長に就任。
・2025年〜: 現在も大学病院 麻酔科非常勤医師を兼務。
最前線の麻酔科医としての豊富な臨床・学術経験(小児麻酔などの高度な気道・安全管理含む)を活かし、美しさと安全性を高いレベルで両立する美容医療を提供しています。