
前回の記事では、顔面老化は皮膚だけでは説明できず、骨・脂肪・ECM・そして retinacular cutis を含む支持構造全体の変化として捉える必要があることを解説しました。
では、その支持構造に対して、高周波(Radiofrequency:RF)はどのように作用するのでしょうか。
「強い熱を入れること」が目的なのではありません。重要なのは、必要な組織へ、必要な熱を、安全に届けることです。
この記事の要点
- モノポーラRFの作用は真皮だけでなく、皮下脂肪から線維性支持構造まで及ぶ
- 線維性隔壁は周囲の脂肪と電気的特性(インピーダンス)が異なり、RFエネルギーが相対的に集中しやすいことが示唆されている(Selective Fibrous Septae Heating)
- 円形電極は「エッジ効果」を避け、放射状に広がる支持ネットワークへ均等に熱を届けるという目的に対して合理的と考えられる
- 接触冷却は熱を弱めるためではなく、表皮を守りながらエネルギーを深部へ安定して届けるための技術
- 目的は脂肪を減らすことではなく、守るべきボリュームを守りながら、緩んだ支持構造へ熱を届けること
モノポーラRFが加熱するのは皮膚だけではない
モノポーラRFは、一つの活性電極から対極板へ向かって電流を流すことで組織内に熱を発生させます。
その作用は真皮〜皮下脂肪、線維性支持構造まで及びます。
熱によってコラーゲンは収縮し、その後の創傷治癒過程で新たなコラーゲン産生や組織リモデリングが誘導されることが知られています。
しかし、臨床で観察されるリフトアップ効果や輪郭変化のすべてを真皮だけで説明することは難しいとされています。
そこで注目されたのが、線維性隔壁(fibrous septae)です。
Selective Fibrous Septae Heating という考え方
皮下脂肪は均一な組織ではありません。
脂肪細胞の間には、線維性隔壁(fibrous septae)が存在しています。これらの隔壁は、前回紹介した retinacular cutis と連続した支持ネットワークの一部でもあります。
モノポーラRFでは、この線維性組織は周囲の脂肪組織と比較して電気的特性(インピーダンス)が異なるため、RFエネルギーが相対的に集中しやすいことが、組織学的解析から示唆されています。
これが Selective Fibrous Septae Heating(線維性隔壁への選択的加熱)という考え方です。
つまり、高周波は脂肪そのものだけではなく、脂肪を支える支持構造にも作用する可能性があるということです。
※なお、この知見はモノポーラRF全般の作用機序に関する報告であり、ハイドロフェーズ(Hydro-Phase)そのものを対象とした組織学的研究ではありません。
なぜ円形チップなのか
ここで興味深いのが、ハイドロフェーズ(Hydro-Phase)のチップ形状です。
ハイドロフェーズでは円形電極が採用されています。
支持靭帯から分岐した retinacular cutis は、放射状・樹枝状に広がる三次元ネットワークを形成しています。
もし治療対象が、この支持ネットワーク全体であるならば、熱も特定の方向だけではなく、均等に広がることが望ましいと考えられます。
工学的には、角を持つ電極では電流が角へ集中しやすい「エッジ効果」が生じます。
一方、円形電極では中心から周囲へ比較的均一な電場を形成しやすく、熱分布の偏りを抑えやすいことが知られています。
このため、円形チップという設計は、放射状に広がる支持構造へ熱を均等に届けるという目的に対して合理的である可能性があります。
※ただし、この考察は電磁気学やRF工学に基づく設計思想であり、円形チップと他形状のチップの臨床効果を直接比較した試験に基づくものではありません。
接触冷却は「熱を弱める」ためではない
ハイドロフェーズには接触冷却機構が搭載されています。
冷却というと、「熱を逃がしてしまうのではないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、接触冷却の役割は熱を弱めることではありません。
表皮を保護しながら、過度な表層加熱を防ぎ、必要なエネルギーをより深部へ安定して届けることにあります。
さらに、
- 表皮熱傷リスクの軽減
- 痛みの軽減
- 一定の熱分布の維持
- 安定した出力の継続
といった点でも重要な役割を担っています。
冷却もまた、熱エネルギーを「制御する技術」の一つなのです。
ハイドロフェーズが目指しているもの
高周波治療というと、「脂肪を減らす」「強く縮める」といったイメージが先行しがちです。
しかし、ハイドロフェーズの設計思想を支持構造という視点から考えると、見えてくる目的は少し異なります。
目指しているのは、脂肪細胞を減らすことではありません。
既存の支持構造に適切な熱刺激を与え、組織リモデリングを促すこと。
守るべきボリュームを守りながら、緩んだ支持構造へ熱を届ける。
そのために、
| 設計要素 | 何のためか |
|---|---|
| モノポーラRFという加熱方式 | 真皮〜皮下脂肪、線維性支持構造まで熱を届けるため |
| 円形チップによる熱分布 | エッジ効果を避け、放射状に広がる支持ネットワークへ均等に熱を広げるため |
| 接触冷却による温度制御 | 表皮を守りながら、必要なエネルギーを安定して深部へ届けるため |
という設計が組み合わされていると考えると、ハイドロフェーズという機器の特徴が理解しやすくなります。
おわりに
美容医療では、「どの機器を使うか」という議論が中心になりがちです。
しかし、本来考えるべきなのは、
「どの組織を、なぜ治療したいのか」
という問いではないでしょうか。
機器は目的ではなく、組織へ適切な刺激を届けるための手段です。
支持構造という視点から治療を考えることは、患者さんごとに異なる顔面構造を理解し、より合理的な治療設計につながると私は考えています。
よくあるご質問(FAQ)
Q. モノポーラRF(高周波)は、皮膚だけを温めているのですか?
皮膚だけではありません。モノポーラRFは、一つの活性電極から対極板へ向かって電流を流すことで組織内に熱を発生させ、その作用は真皮から皮下脂肪、線維性支持構造にまで及びます。熱によってコラーゲンは収縮し、その後の創傷治癒過程で新たなコラーゲン産生や組織リモデリングが誘導されることが知られています。臨床で観察されるリフトアップ効果や輪郭変化のすべてを真皮だけで説明することは難しいとされており、そこで注目されたのが線維性隔壁(fibrous septae)です。
Q. Selective Fibrous Septae Heating(線維性隔壁への選択的加熱)とは何ですか?
皮下脂肪は均一な組織ではなく、脂肪細胞の間には線維性隔壁(fibrous septae)が存在します。これらの隔壁は、支持靭帯から枝分かれした retinacular cutis と連続した支持ネットワークの一部でもあります。モノポーラRFでは、この線維性組織は周囲の脂肪組織と比較して電気的特性(インピーダンス)が異なるため、RFエネルギーが相対的に集中しやすいことが組織学的解析から示唆されています。これが Selective Fibrous Septae Heating という考え方で、高周波は脂肪そのものだけでなく、脂肪を支える支持構造にも作用する可能性がある、ということを意味します。なお、この知見はモノポーラRF全般の作用機序に関する報告であり、ハイドロフェーズそのものを対象とした組織学的研究ではありません。
Q. ハイドロフェーズのチップが円形なのはなぜですか?
支持靭帯から分岐した retinacular cutis は、放射状・樹枝状に広がる三次元ネットワークを形成しています。治療対象がこの支持ネットワーク全体であるならば、熱も特定の方向だけでなく均等に広がることが望ましいと考えられます。工学的には、角を持つ電極では電流が角へ集中しやすい「エッジ効果」が生じる一方、円形電極では中心から周囲へ比較的均一な電場を形成しやすく、熱分布の偏りを抑えやすいことが知られています。ただしこの考察は電磁気学・RF工学に基づく設計思想であり、円形チップと他形状のチップの臨床効果を直接比較した試験に基づくものではありません。
Q. 接触冷却があると、高周波の効果は弱まりませんか?
接触冷却の役割は熱を弱めることではありません。表皮を保護しながら過度な表層加熱を防ぎ、必要なエネルギーをより深部へ安定して届けることにあります。さらに、表皮熱傷リスクの軽減、痛みの軽減、一定の熱分布の維持、安定した出力の継続といった点でも重要な役割を担っています。冷却もまた、熱エネルギーを「制御する技術」の一つです。
Q. ハイドロフェーズは脂肪を減らす治療ですか?
支持構造という視点から設計思想を考えると、目指しているのは脂肪細胞を減らすことではありません。既存の支持構造に適切な熱刺激を与え、組織リモデリングを促すこと、つまり守るべきボリュームを守りながら、緩んだ支持構造へ熱を届けることです。モノポーラRFという加熱方式、円形チップによる熱分布、接触冷却による温度制御という設計が、その目的のために組み合わされていると考えると理解しやすくなります。
参考文献
- El-Domyati M, et al. J Am Acad Dermatol. 2011;64:524-535. PMID: 21315951.
- Computational modeling and histologic analysis of 6.78- and 2-MHz monopolar radiofrequency-induced thermal reactions. Lasers Med Sci. 2025.
- Rohrich RJ, Pessa JE. Plast Reconstr Surg. 2007.
- Alghoul M, Codner MA. Aesthet Surg J. 2013.
- Mendelson BC. Aesthetic Plast Surg. 2013.
注:本稿は、顔面支持構造およびモノポーラRFに関する文献をもとに、ハイドロフェーズ(Hydro-Phase)の治療設計について考察したものです。円形チップの意義や熱分布に関する記述は、電磁気学・RF工学・解剖学を踏まえた著者の考察であり、他形状の電極との臨床効果を直接比較した試験結果を示すものではありません。
※治療の効果や経過には個人差があります。適応、リスク・副作用、費用については、診察時に医師より個別にご説明いたします。
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■ 執筆者・監修者プロフィール
中野 陽子(アートラウンジクリニック院長 / 麻酔科専門医・麻酔科指導医)
【略歴・学術実績】
・2007年: 獨協医科大学医学部 卒業。在学中、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)へ留学。
・2009年〜: 沖縄県立北部病院、岩手医科大学などで麻酔科学を深く研鑽。
・2016年: 日本麻酔科学会誌『麻酔』にて、小児の高度な気道管理に関する論文を筆頭著者として発表。
・2022年: 大手美容クリニックを経て、アートラウンジクリニック院長に就任。
・2025年〜: 現在も大学病院 麻酔科非常勤医師を兼務。
最前線の麻酔科医としての豊富な臨床・学術経験(小児麻酔などの高度な気道・安全管理含む)を活かし、美しさと安全性を高いレベルで両立する美容医療を提供しています。