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顔のたるみは「皮膚」だけでは説明できない|顔面支持構造(retinacular cutis)から考える顔面老化【六本木アートラウンジクリニック 中野陽子院長】

2026.08.06

顔面支持構造(retinacular cutis)から顔面老化を解説する、アートラウンジクリニック院長・中野陽子医師(麻酔科専門医・麻酔科指導医)

「顔のたるみ」と聞くと、多くの方は皮膚が伸びてしまった状態を思い浮かべるかもしれません。

しかし実際の顔面老化は、それほど単純ではありません。

近年の解剖学的研究によって、顔面は皮膚・脂肪・支持靭帯・筋膜・骨が立体的に連結した構造であり、加齢とともにそれぞれが異なる速度で変化することが明らかになってきました。

つまり、たるみとは「皮膚だけ」の問題ではなく、顔全体の支持構造が変化することで生じる現象なのです。

この記事の要点

  • 顔面老化は、骨・脂肪・真皮ECM・支持靭帯がそれぞれ異なる速度で、部位ごとに異なる割合で進行する三次元的な変化である
  • 顔の脂肪は一枚の層ではなく、線維性隔壁で区切られた複数の「脂肪コンパートメント」から成る
  • 支持靭帯は表層へ向かって枝分かれし、retinacular cutis という線維ネットワークとなって真皮へ連続している
  • たるみ治療で見るべきは「脂肪の量」だけではなく、その脂肪を支えている構造でもある

顔面老化は三次元的に進行する

加齢による変化は、一つの組織だけで起こるわけではありません。

例えば、

  • 骨格支持の変化
  • 深部脂肪コンパートメントの萎縮
  • 浅層脂肪コンパートメントの移動・集積
  • 真皮ECM(細胞外マトリックス)の変性
  • 支持靭帯や線維性支持構造の弛緩

これらが同時に、しかも部位ごとに異なる割合で進行します。

そのため、「脂肪が減った」「皮膚が緩んだ」といった一面的な評価だけでは、顔面老化を十分に説明することはできません。

治療を考える際には、どの部位で何が起こっているのかを立体的に理解することが重要になります。

脂肪は一枚ではなく、コンパートメントに分かれている

以前は、顔面の脂肪は一続きの層として考えられていました。

しかし現在では、顔面脂肪は線維性隔壁によって区切られた複数の脂肪コンパートメントから構成されることが知られています。

この構造によって、それぞれの脂肪は異なる加齢変化を示します。

ある部位では萎縮し、ある部位では下方へ移動し、また別の部位では比較的保たれることもあります。

したがって、「顔全体の脂肪量」で評価するのではなく、「どのコンパートメントにどのような変化が起きているか」という視点が重要になります。

顔を支えているのは「支持靭帯」だけではない

支持靭帯(retaining ligament)は、顔面を支える重要な構造として広く知られています。

しかし実際には、支持靭帯は骨膜や深筋膜から始まり、そのまま一本の線維として皮膚へ到達するわけではありません。

深部から表層へ向かうにつれて細かく枝分かれし、最終的には無数の線維となって真皮へ連続します。

この枝分かれした線維ネットワークが retinacular cutis と呼ばれる構造です。

retinacular cutis という「支持ネットワーク」

retinacular cutis は、皮下脂肪を区切る線維性隔壁(fibrous septae)の一部を構成しています。

イメージとしては、大きな木を思い浮かべると分かりやすいです。

骨膜や深筋膜から伸びる支持靭帯は太い幹にあたり、そこから無数の枝が分かれ、最終的には細い枝葉となって真皮へ到達します。

このネットワークによって、

  • 骨格
  • SMAS
  • 脂肪コンパートメント
  • 真皮

一つの連続した構造として機能しています。

顔の立体感やハリは、それぞれの組織だけではなく、この支持ネットワーク全体によって維持されているのです。

用語の整理

用語何を指すか木にたとえると
支持靭帯
(retaining ligament)
骨膜や深筋膜から始まり、顔面を支える線維性の構造太い幹
retinacular cutis支持靭帯が表層へ向かって枝分かれし、真皮へ連続する線維ネットワーク幹から分かれる無数の枝
線維性隔壁
(fibrous septae)
皮下脂肪を区画に仕切る線維の壁。retinacular cutis はその一部を構成する枝がつくる仕切り
脂肪コンパートメント線維性隔壁で区切られた顔面脂肪の区画。区画ごとに加齢変化が異なる枝で仕切られた部屋
SMAS表在性の筋膜腱膜層。支持ネットワークを介して骨格・脂肪・真皮とつながる幹と枝をつなぐ層

「どれだけ脂肪があるか」だけではなく、「支持構造がどうなっているか」

たるみ治療を考えるとき、「脂肪が多い」「脂肪が少ない」という議論になりがちです。

もちろん脂肪量は重要な要素です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

実際には、脂肪を支える線維性ネットワークや支持構造がどのような状態にあるかを併せて評価することが、より合理的な治療設計につながります。

つまり、見るべき対象は脂肪そのものだけではなく、その脂肪を支えている構造でもあるということです。


次回予告

では、この「支持ネットワーク」に対して、モノポーラRF(高周波)はどのように作用するのでしょうか。

そして、なぜ高周波機器の設計には電極の形状や冷却機構が重要になるのでしょうか。

次回は、支持構造と高周波治療の関係を、生理学・組織学・工学の視点から解説したいと思います。

▶ 後編はこちら:高周波(RF)は何を温めているのか|線維性隔壁への選択的加熱とハイドロフェーズの設計思想


よくあるご質問(FAQ)

Q. 顔のたるみは、皮膚がのびて起こるのですか?

皮膚だけでは説明できません。顔面は皮膚・脂肪・支持靭帯・筋膜・骨が立体的に連結した構造で、加齢に伴い、骨格支持の変化、深部脂肪コンパートメントの萎縮、浅層脂肪コンパートメントの移動や集積、真皮ECM(細胞外マトリックス)の変性、支持靭帯や線維性支持構造の弛緩が、同時に、しかも部位ごとに異なる割合で進行します。たるみとは「皮膚だけ」の問題ではなく、顔全体の支持構造が変化することで生じる現象です。

Q. 顔面脂肪コンパートメントとは何ですか?

顔面脂肪コンパートメントとは、線維性隔壁によって区切られた、複数の区画に分かれた顔の脂肪のことです。以前は顔の脂肪は一続きの層と考えられていましたが、現在では区画ごとに異なる加齢変化を示すことが知られています。ある部位では萎縮し、ある部位では下方へ移動し、また別の部位では比較的保たれることもあります。そのため「顔全体の脂肪量」ではなく「どのコンパートメントにどのような変化が起きているか」という視点が重要になります。

Q. retinacular cutis(レチナキュラー・クチス)とは何ですか?

retinacular cutis とは、支持靭帯が深部から表層へ向かうにつれて細かく枝分かれし、無数の線維となって真皮へ連続する線維ネットワークのことです。皮下脂肪を区切る線維性隔壁(fibrous septae)の一部を構成しています。大きな木にたとえると、骨膜や深筋膜から伸びる支持靭帯が太い幹、そこから分かれる無数の枝が retinacular cutis、そして細い枝葉が真皮に到達する部分にあたります。このネットワークによって、骨格・SMAS・脂肪コンパートメント・真皮が一つの連続した構造として機能しています。

Q. たるみ治療では、脂肪の量だけを評価すればよいのですか?

脂肪量は重要な要素ですが、それだけでは十分ではありません。実際には、脂肪を支える線維性ネットワークや支持構造がどのような状態にあるかを併せて評価することが、より合理的な治療設計につながります。見るべき対象は脂肪そのものだけではなく、その脂肪を支えている構造でもある、という考え方です。


参考文献

  1. Rohrich RJ, Pessa JE. The fat compartments of the face: anatomy and clinical implications. Plast Reconstr Surg. 2007.
  2. Alghoul M, Codner MA. Retaining ligaments of the face: review of anatomy and clinical applications. Aesthet Surg J. 2013.
  3. Mendelson BC. Facial anatomy and aging. Aesthetic Plast Surg. 2013.
  4. Boehm LM, et al. Plast Reconstr Surg. 2021.

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■ 執筆者・監修者プロフィール
中野 陽子(アートラウンジクリニック院長 / 麻酔科専門医・麻酔科指導医)

【略歴・学術実績】
・2007年: 獨協医科大学医学部 卒業。在学中、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)へ留学。
・2009年〜: 沖縄県立北部病院、岩手医科大学などで麻酔科学を深く研鑽。
・2016年: 日本麻酔科学会誌『麻酔』にて、小児の高度な気道管理に関する論文を筆頭著者として発表。
・2022年: 大手美容クリニックを経て、アートラウンジクリニック院長に就任。
・2025年〜: 現在も大学病院 麻酔科非常勤医師を兼務。

最前線の麻酔科医としての豊富な臨床・学術経験(小児麻酔などの高度な気道・安全管理含む)を活かし、美しさと安全性を高いレベルで両立する美容医療を提供しています。