
「顔の筋肉も、体と同じように年をとって衰える」——美容医療の現場では、当たり前のようにそう言われます。
でも、ちょっと待ってください。体を鍛えるみたいに顔も筋トレすれば、同じように効果が出るんでしょうか。
実はここ、そんなに単純な話ではないんです。顔の筋肉(表情筋)は、体の筋肉とは成り立ちからして違うということが研究でだんだんわかってきています。今日はそのあたりを、できるだけ分かりやすくお話しします。
この記事の要点
- 加齢による筋量減少(サルコペニア)は40代以降、10年で約6%ずつ進むが、すべての筋肉が同じスピードで衰えるわけではない
- 表情筋は体の筋肉と発生学的な起源が違う。心臓を作る細胞と近い仲間から生まれる、特殊な筋肉である
- 表情筋には関節がないため、体の筋トレの原則「漸進的過負荷」がそのまま成立しない
- 顔の体操には一定の効果を示すデータがあるがまだ研究段階。HIFES機器には筋質改善を示すデータがあるが、体操との優劣は言い切れない
そもそも「筋肉が衰える」ってどういうこと
年齢とともに筋肉が減っていく現象、これを「サルコペニア」と呼びます。
筋肉の線維が細く、少なくなる。筋肉を修復してくれる幹細胞も減っていく。神経とのつながりも弱くなる。
数字で言うと、40代以降は10年でだいたい6%ずつ、体の筋肉が減っていくと言われています。高齢者の3割近くがサルコペニアに当てはまるという報告もあるくらいですから、決して珍しい話ではありません。
ただし、全部の筋肉が同じスピードで衰えるわけではありません。目を動かす筋肉や横隔膜のように、わりと衰えにくい筋肉もあります。(これは眼輪筋の話ではありません)
顔の筋肉、実は体の筋肉と「生まれ」が違う
ここが今日いちばん伝えたいところです。
腕や脚の筋肉と、顔の表情筋。この2つ、お腹の中にいる胎児の段階から、まったく別の場所で作られています。専門的には「発生学的な起源が違う」という言い方をしますが、要は生まれた場所からして別物、ということです。
しかも面白いことに、顔の筋肉のもとになる細胞は心臓を作る細胞とけっこう近い仲間だったりします。顔の筋肉って、腕の筋肉を小さくしたようなものではなく、まったく違うルーツを持つ、ちょっと特殊な筋肉なんですね。
だから、体の筋肉で確立されている「老化の仕組み」を、そのまま顔にあてはめて考えるのは、正直あまり慎重とは言えません。
鍛え方も、体とはそもそも違う
腕立て伏せやダンベル運動。体の筋トレは、関節を支点にして、少しずつ重い負荷をかけていくことで筋肉を強くします。「漸進的過負荷」というやつです。
ところが顔の表情筋には、関節がありません。頭の骨から始まって、皮膚に直接くっついている。関節がないということは、重りを少しずつ増やすというあのやり方が、そもそも成立しないんです。
誤解しないでほしいのですが、これは「顔を動かしても意味がない」という話ではありません。体と同じやり方が、構造上そのまま当てはまらないだけです。
実際、顔の体操を20週間続けたグループで、写真で見た目の若返りが確認できたという小さな研究もあります。ただこの研究、比較対象(何もしないグループ)を置いていません。だから「本当に体操の効果だった」とまで言い切るのは、まだ早いというのが正直なところです。
電気で刺激するタイプ(EMS・HIFES)はどうなの
体の筋肉の世界では、電気刺激によるトレーニング(EMS、専門的にはNMES)が、自分で動かす運動と同じくらい、組み合わせればそれ以上の効果を出せることが、いくつもの研究でわかっています。
顔専用の機器、たとえばエムフェイスのようなHIFESという技術を使ったものについても、独自のデータが出てきています。
超音波で顔の筋肉を調べる検査では、施術後に筋肉の状態が良くなったことを示す結果が出ています。動物の皮膚や筋肉を使った組織の研究でも、構造的な変化が確認されている。
つまり、HIFES機器そのものに、顔の筋肉の質を改善するというデータがあるのは事実です。
まとめると
顔の筋肉は、体の筋肉とは生まれも構造も違う、ちょっと特殊な筋肉です。だから、体と同じ「筋トレ」のやり方をそのまま当てはめるのは難しい。
自分でやる顔の体操にも、一定の効果を示すデータはあります。ただ、まだ研究段階と言ったほうが正確でしょう。
HIFES機器については、顔の筋肉の質が良くなったというデータが出ています。とはいえ「体操より機器のほうが上」とまでは、現時点では言い切れません。
顔の美容医療は、こういう一つひとつのデータを丁寧に積み重ねながら、少しずつ理解が進んでいく分野だと思います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の施術・機器の効果を保証したり、その利用を推奨したりするものではありません。
よくあるご質問(FAQ)
Q. 顔の筋肉(表情筋)も年齢とともに衰えますか?
A. 加齢による筋量減少(サルコペニア)は体の筋肉で確立された現象ですが、すべての筋肉が同じスピードで衰えるわけではありません。表情筋は発生学的な起源が体の筋肉と異なるため、体の老化の仕組みをそのまま顔にあてはめるのは慎重であるべき、というのが現在の理解です。
Q. 顔の体操(フェイスエクササイズ)は効果がありますか?
A. 20週間の顔の体操で見た目の若返りが確認できたという研究(JAMA Dermatol. 2018)はありますが、比較対象を置いていない小規模研究のため、効果と言い切るにはまだ研究段階です。
Q. 表情筋は体の筋肉と何が違うのですか?
A. 胎児期の発生の場所が違い、心臓を作る細胞と近い仲間から生まれます。また関節を持たず、骨から始まって皮膚に直接付着しているため、体の筋トレの原則「漸進的過負荷」がそのまま成立しません。
Q. EMS・HIFES機器は顔の筋肉に効きますか?
A. HIFES機器には超音波検査で筋肉の質の改善を示したパイロット研究や、動物実験で組織の構造変化を確認した報告があります。ただし「体操より機器のほうが上」とまでは現時点では言い切れません。
参考文献
- サルコペニアの定義・診断基準(EWGSOP2, 2018年改訂)
- 外眼筋など一部の筋肉が加齢に抵抗性を示すという報告:Muscle Aging Heterogeneity: Genetic and Structural Basis of Sarcopenia Resistance. PMC12385665.
- 顔の筋肉の発生学的な起源に関する報告:Harandi VM, et al. Distinct origins and genetic programs of head muscle satellite cells. Dev Cell. 2009. PMID: 19531353
- 顔の筋肉が皮膚に付着し関節を持たないという解剖学的事実:Anatomy, Head and Neck: Facial Muscles. StatPearls. NBK493209.
- 顔の体操(フェイスエクササイズ)の効果を調べた研究:Alam M, et al. Association of Facial Exercise With the Appearance of Aging. JAMA Dermatol. 2018;154(3):365-367. PMID: 29299598
- 電気刺激トレーニング(NMES)と通常の筋トレを比較した報告:Happ K, Behringer M. Neuromuscular Electrical Stimulation Training vs. Conventional Strength Training: A Systematic Review and Meta-Analysis. 2021.
- 電気刺激と通常運動を組み合わせた際の上乗せ効果に関する報告:The Additive Effect of Neuromuscular Electrical Stimulation and Resistance Training on Muscle Mass and Strength. Eur J Appl Physiol. 2024.
- 電気刺激のみで筋肉が大きくなったという報告:Eight-week neuromuscular electrical stimulation training produces muscle strength gains and hypertrophy in the knee extensors. J Sports Sci. 2024.
- HIFES機器による顔の筋肉の質改善を示す報告(超音波検査):The Simultaneous Application of Synchronized Radiofrequency and HIFES Technology Improves the Tone of Facial Muscles, as Assessed by Ultrasound Echo Intensity: A Pilot Study. NCT05524740. PMC12152478.
- HIFES機器による筋肉の構造変化を示す報告(動物実験):Novel Technology for Facial Muscle Stimulation Combined With Synchronized Radiofrequency Induces Structural Changes in Muscle Tissue: Porcine Histology Study. Aesthet Surg J. 2023;43(8):920-927. PMID: 36883601
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■ 執筆者・監修者プロフィール
中野 陽子(アートラウンジクリニック院長 / 麻酔科専門医・麻酔科指導医)
【略歴・学術実績】
・2007年: 獨協医科大学医学部 卒業。在学中、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)へ留学。
・2009年〜: 沖縄県立北部病院、岩手医科大学などで麻酔科学を深く研鑽。
・2016年: 日本麻酔科学会誌『麻酔』にて、小児の高度な気道管理に関する論文を筆頭著者として発表。
・2022年: 大手美容クリニックを経て、アートラウンジクリニック院長に就任。
・2025年〜: 現在も大学病院 麻酔科非常勤医師を兼務。
最前線の麻酔科医としての豊富な臨床・学術経験(小児麻酔などの高度な気道・安全管理含む)を活かし、美しさと安全性を高いレベルで両立する美容医療を提供しています。