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NaV1.8の「部分ブロック」を自分の身体で感じてみた|麻酔科医がsuzetrigineを内服して見えたこと【六本木アートラウンジクリニック 中野陽子院長】

2026.08.12

suzetrigine(NaV1.8選択的阻害薬)の内服体験を語る、アートラウンジクリニック院長・中野陽子医師(麻酔科専門医・麻酔科指導医)

以前、この薬について「麻酔科医は新しい薬に出会ったとき、何を考えるのか」という視点で書きました。

新しい薬に出会ったとき、麻酔科医は何を考えるのか|非オピオイド鎮痛薬スゼトリジン(JOURNAVX®)と美容医療の安全性

あのときはまだ、私はこの薬を「論じる」側にいました。

今回、実際に自分の身体で内服する機会がありましたので、その体験を麻酔科医としての臨床経験と接続しながら記録しておきたいと思います。

結論から先に申し上げます。

①内服後に自覚した末梢の異常感覚。
②その4時間後に受けたモフィウス8での麻酔クリームの有無による痛みの差。
③そして11時間経ってもまだ消えない末梢の違和感。

3つとも、同じ原理で説明できるかもしれない。濃度が閾値付近にとどまるとき、神経には「部分的に」しか効かない。そう感じました。

タイムライン

時点経過
T+0絶食下でsuzetrigine内服
T+1時間手・下腿に左右対称性のピリピリ感を自覚。特に手背は動作時に増強
T+4時間モフィウス8(RFマイクロニードリング)施術。まず右側を麻酔クリームなし(suzetrigine単独)で開始したところ、痛みを感じる箇所があった
T+4時間左側は麻酔クリームを塗布して施術。ほぼ痛みを感じずに(痛み自制内の部位もあり)終了した
T+9時間末梢の違和感は持続。増悪はなく安定。他の随伴症状なし

服薬後1時間で、末梢にピリピリ感が出ました

空腹時のTmax(血中濃度がピークに達する時間)は、添付文書上おおよそ3時間とされています。私の場合、症状が出たのは服薬後1時間。つまりTmaxに至る前、血中濃度がまだ上がっている途中の段階でした。

左右対称に、手と下腿です。特に手背は、動かしたときに強く感じました。

これは、麻酔科医としては見覚えのある感覚です。

局所麻酔薬を投与した直後、まだ神経周囲の濃度が十分でない段階。神経は完全にはブロックされず、むしろピリピリとした異常感覚を自覚しやすい。臨床でよく経験する、あの感覚です。

私自身、患者として硬膜外麻酔と脊椎麻酔を3回施行された経験があります。あ、これは効き始めの、あの感覚だ、と感じました。

なぜ「効き始め」に、こういう感覚が出るのか

神経は本来、興奮するかしないかのall or nothingで、規則正しく発火しています。そこにチャネル阻害薬が閾値付近の中途半端な濃度で作用すると、一部のチャネルは開いたまま、一部は閉じる。この不均一な状態が、本来ないはずの異所性の発火(ectopic discharge)を生みます。脳はそれを、ピリピリ、痺れ、として認識します。

NaV1.8は、後根神経節や末梢侵害受容器のC線維・Aδ線維に選択的に発現しているチャネルです[1]。不完全なブロックが異常感覚を生むことは、局所麻酔薬など他のナトリウムチャネル遮断薬でもよく知られた現象です[1]。

市販後のデータでも、この感覚異常は裏付けられています

FAERS(米国の有害事象報告システム)を用いた不均衡分析で最も目立った市販後シグナルの一つが、まさにこの感覚異常(sensory dysesthesia)でした。

具体的には、paresthesia、burning sensation、skin burning sensation、hypoaesthesia。ピリピリ感、灼熱感、皮膚表面の焼けるような感覚、感覚鈍麻。いずれも、私が感じたものと重なります[1]。

著者らは、NaV1.8が小径のDRG侵害受容ニューロンや無髄C線維に強く発現し、疼痛伝達における反復発火を支えていることに注目しています。この点を踏まえ、NaV1.8を選択的に阻害すると、単に痛みが取れるだけでなく、末梢感覚入力の質そのものが変化し、tingling、numbness、burningのような異常知覚が生じうると論じています[1]。

興味深いのは、これらの感覚異常が、承認前の主要な臨床試験では目立ったシグナルではなかったという点です。市販後になって、FAERSのデータの中で初めて明瞭になってきたことです[2]。

私が経験したピリピリ感は、まさにこの「市販後になって見えてきた」現象そのものだったのだと思います。

つまり私が感じたピリピリ感は「薬が効いていない証拠」ではなく「薬が効き始めている、過渡期の証拠」です。

なぜ手背が、動かしたときに強かったのか

これには、二つの理由が重なっていると考えています。

ひとつは、神経終末の密度。指先や手背は、体性感覚のホムンクルス的に見ても、もともと感覚神経終末の密度が高い部位です。同じ薬理学的な作用でも、密度の高い部位ほど自覚症状として顕在化しやすいですよね。

もうひとつは、動作による増悪。部分的にブロックされた侵害受容器の終末は、安静時よりも機械的な刺激に対して感受性が変化することが知られています。手背は、動作のたびに皮膚が伸び縮みする部位です。動かしたときに症状が強まったのは、この機序と整合します。

4時間後、モフィウス8を受けました

右側は、麻酔クリームなし。suzetrigine単独で開始しました。正直に申し上げると、痛みを感じる部位がありました。

そのため左側は、麻酔クリームを塗布してから開始しました。ほぼ痛みを感じずに(痛み自制内、という部分もありましたが)終了しました。

同じ施術、同じ出力設定、同じ人の身体で、片側だけ条件を変えた形になります。

RFマイクロニードリングの痛みの部位差は、通常は侵害受容器密度、皮下組織の厚み、骨への近さ、皮膚の可動性、脂肪層の厚み。こうした要因で説明される、と私は理解しています。

でも、左右でこれほど差が出たことを考えると、それだけではないのではないか、と感じました。麻酔クリームの有無そのものが、決定的な変数だったのではないでしょうか。

suzetrigine単独(右側)では、末梢のNaV1.8は部分的にしか阻害されていない状態でした。そこに、局所麻酔薬(左側のみ追加)が重なることで閾値を超え、末梢神経がより完全にブロックされた。そう考えると、辻褄が合います。

11時間経っても、違和感は続いています

増悪はありません。安定しています。しびれ以外の症状もなく、いつも通りです。ただ、消えてはいない。

なぜかと考えて、行き着いたのが半減期の長さです。

Suzetrigineの半減期は23.6時間。活性代謝物M6-SUZの半減期はさらに長く、約33時間とされています。M6-SUZのTmax(血中濃度のピーク)は、空腹時投与でおよそ8〜10時間。

つまり9時間というタイミングは、親化合物の血中濃度がまだ十分に残っている上に、活性代謝物がちょうどピークに向かっている、そんな時間帯だったことになります。(活性代謝物M6-SUZはSuzetrigineの活性の約1/3.7ではありますが、活性を持ちます)

だから症状は、山と谷を繰り返すのではなく、なだらかに持続する。私の場合は、まさにそういう経過です。

内服も、施術も、同じ言葉で説明できる

Suzetrigineの内服体験と、局所麻酔塗布による左右差。標的とする受容体は違います。一方はNaV1.8選択的、もう一方は局所麻酔薬による多チャネル性の阻害ですが、閾値付近で起きていることは同じです。

一部のチャネルが閉じ、一部が開いたまま。その不均一さが、異常感覚として自覚される。

ただし、行き着く先は違います。

局所麻酔薬は、十分な濃度に達すれば、活動電位の伝導を止めるだけのチャネルを閉じることができます。臨床的には、それが「無感覚」として現れます。ただし、これも無制限にできるわけではありません。濃度を上げすぎれば、全身毒性(LAST)のリスクが先に立ちます。安全域の中で、伝導ブロックにどこまで近づけるか、という話です。

一方でSuzetrigineは、NaV1.8だけを選択的に閉じる薬です。だから、どれだけ内服しても、この薬単独で局所麻酔薬のような無感覚には至らない。それがおそらく、9時間経っても違和感が「消える」のではなく「持続する」ことの、もう一つの理由だったのだと思います。

なぜ、選択的なのに効くのか

ここで、根本的な疑問が残ります。NaV1.8だけを狙って、他は温存する。そんな薬で、鎮痛効果は十分なのか。

答えは、NaV1.8というチャネルの役割そのものにあります。NaV1.8は、末梢侵害受容器において、痛み信号の発火そのものを担う中心的なチャネルです。

局所麻酔薬は、伝導路のどこか一箇所を、完全に遮断します。Suzetrigineは違います。痛みの発生源そのものを選んで、そこだけを抑える。より上流でのアプローチです。

NaV1.7やNaV1.9など、他のサブタイプは温存されます。だから、触覚や運動神経の伝導は保たれたまま、痛覚の発火だけが抑制される。これが、私が体験した「消えない違和感」の正体だと思います。

NaV1.8選択性ゆえに、完全遮断には至らない。局所麻酔薬なら到達できる「無感覚」という終着点に、この薬単独では、たどり着けない。

でもそれは、弱点ではありません。触覚や運動神経を犠牲にせず、痛みの発生源だけを狙って抑える。そのため呼吸抑制も、依存も起こさない。

選択的であることは、効果を犠牲にした安全性ではなく、痛みの発生源を狙い撃ちすることで、必要十分な鎮痛効果をより低いリスクで得るという設計思想なのだと、自分の身体で感じました。

結論、Suzetrigineという薬は必要十分な鎮痛効果を得ることはできるが、単独で全てを解決できるものではない。

局所麻酔の導入期に一過性の異常感覚が出るのも、外用麻酔で部位によって痛みが違うのも、Suzetrigineを内服して手足がピリピリしたのも。麻酔科医としては、全部同じ生理学の延長線上にあります。

これは、エビデンスではなく仮説です

正直に書いておきたいと思います。

これは私一人の体験です。対照群もなく、盲検化もされていません。仮説を持った状態で自分の症状を観察しているので、確証バイアスの影響は排除できません。

Suzetrigineと外用局所麻酔薬の相互作用について、直接検証したデータは私が探した限り、現時点では存在しません。ここに書いたことは、あくまで機序的な類推であり、実証されたものではありません。

初めての薬を飲んだという緊張や、施術への予期不安が、痛覚の感じ方に影響した可能性も否定できません。

それでも、記録しておく価値はあると思いました。

麻酔科医として、持ち帰りたいこと

もしこの仮説が妥当なら、実務的にはこう言えると思います。

  • 麻酔導入期の異常感覚は、「効いていない」のではなく「効き始めている」証拠として、患者さんに説明できる。
  • 部位別の痛みの差は、神経終末の密度だけでなく、麻酔薬の浸透のムラという要因でも説明できる。
  • 痛みの強い部位への追加浸潤や待機時間の延長は、閾値以下から完全ブロックへ移行させるための、理にかなった対応である。

新しい薬を、自分の身体で経験してみる。その一次情報は、添付文書や論文だけでは得られないものを教えてくれることがあります。


これは私個人の見解であり、体験です。薬剤の一般的な安全性や有効性を示すものではありません。医薬品の使用にあたっては、必ず添付文書および医師の指示に従っていただくようお願いします。

今回の内服は、麻酔科医としてこの薬の作用機序を自分の身体で検証したいという私自身の意思によるものです。JOURNAVX®(suzetrigine)は、2026年現在、日本では未承認の薬剤です。この記事は、内服を推奨するものでも、止めるものでもありません。あくまで一人の麻酔科医の、個人的な体験の記録です。


参考文献

  1. The real-world safety evaluation of the selective NaV1.8 inhibitor suzetrigine: disproportionality analysis and flexible empirical bayes signals from FAERS with external triangulation. Frontiers in Pharmacology. 2026.
  2. Emerging adverse event signals of new analgesic suzetrigine: a disproportionality analysis of the FAERS database. 2026. PMID: 42144936

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■ 執筆者・監修者プロフィール
中野 陽子(アートラウンジクリニック院長 / 麻酔科専門医・麻酔科指導医)

【略歴・学術実績】
・2007年: 獨協医科大学医学部 卒業。在学中、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)へ留学。
・2009年〜: 沖縄県立北部病院、岩手医科大学などで麻酔科学を深く研鑽。
・2016年: 日本麻酔科学会誌『麻酔』にて、小児の高度な気道管理に関する論文を筆頭著者として発表。
・2022年: 大手美容クリニックを経て、アートラウンジクリニック院長に就任。
・2025年〜: 現在も大学病院 麻酔科非常勤医師を兼務。

最前線の麻酔科医としての豊富な臨床・学術経験(小児麻酔などの高度な気道・安全管理含む)を活かし、美しさと安全性を高いレベルで両立する美容医療を提供しています。